7月26日に大阪学院大学国際理解研究会は、吹田市教育センターとともに「ちきゅうじん・多文化理解を深めるために II」を開催しました。小・中学校の先生方を学院大学にお招きして、国際理解教育をともに学びあうことを目的とした研修会です。
午前中は、畝川憲之先生(国際学部)から「多民族国家マレーシアの教育事情」の報告が行われました。マレー人(約66%)、華人(中国系)(約26%)、インド系(約8%)という民族集団をもつ多民族国家マレーシアの教育システムの報告です。
1960年以来、マレーシアはマレー語を教育言語に統一することで、国民統合を目指しました。「言語の違いを持つ教育システムの採用は国民アイデンティティの形成という目標に矛盾する」と考えられたからです。
しかし1990年以来、それは変更を余儀なくされました。第一に、マレー語を中心とする手法が緩和されました。「肌の色や文化の違いにかかわらず、すべてのマレーシア人はそれぞれの習慣、文化、宗教を実施するのは自由である。ただし、すべての国民がマレーシアへの国民帰属意識を持つ社会を形成する」とされました。
第二に、民族間の交流を促進して、国民的アイデンティティの形成を目指そうとしています。第三に、英語教育が重視されるようになったとの指摘がなされました。
続いて、大塚和義先生(国際学部)から「日本と周辺諸国の少数・先住民教育の現状と課題」の報告が行われました。この報告では、日本は多民族国家であるとの視点から、とりわけ北方諸民族の事例が報告されました。
明治以来、日本は北海道を内国植民地と位置づけ、開拓使を設置し、他方蝦夷人(アイヌ人)を「旧土人」として戸籍に記入しました。アイヌ人の民族的誇りを奪い、さらに同化させる政策が推進されたのです。その典型例は土人学校の設置でした。土人学校では、日本語をアイヌ児童に教育する場であったのです。
ようやく1997年アイヌ文化振興法が施行されました。これにより日本が複数民族の国家であることを認めたのです。日本人は、歴史的にアイヌ文化を否定し、アイヌの人たちにこのうえない苦悩の道を強いました。この反省のうえに、この法律はアイヌの文化享有権を認めました。施策として、アイヌ語を初めとする民族伝統の文化学習や次世代への継承を保障しています。
しかしながら日本人のアイヌ人に対する関心は低いままです。内なる異文化に対する認識の高まりなしに、多文化理解はありえないのではないかという提言で報告は締めくくられました。(広野)
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