直前のエントリーで早尻真人さんが言及している高坂正尭『古典外交の成熟と崩壊』（高坂正尭著作集第６巻所収、都市出版、2003年；もともと中央公論社から1978年に出版）は、１８世紀に完成されたヨーロッパ外交が、成熟し変質し崩壊した歴史的過程を考察した著作です。国際政治学の必読文献の一つと言っても過言ではありません。
１８世紀ヨーロッパの「古典外交」は、各国の利益と勢力を分析し、自国の利益の増進をはかりながら、妥協を行うことに務めました。その基礎は勢力均衡の原則でした。この勢力均衡の原理が機能したのは、当時、オーストリア・プロシア・ロシア・フランス・イギリスの５カ国の勢力が拮抗をしていたこと。権力闘争のために使える手段が限定されていた等の理由を考えることができます。
さらにそれだけでなく勢力均衡の原則は、「多様性への愛」により支えられていたことも示されています。つまり当時のヨーロッパが、古代ローマ帝国や中国とは異なり、単一の帝国支配のもとにおかれず、複数の大国のバランスのもとにおかれていたこと、そしてそのもとで各国がそれぞれの目的追求のため切磋琢磨したことが、活力の源泉、創造力の源泉、ひいては自由につながっているということが当時のヨーロッパの共通認識になっていたことが示されていたのです。（広野）
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