瀬川 真平
・成長の場
国外のスタディツアーやフィールドワークで、学生たちは自分たちとは異なる価値観や生活スタイルや慣習などに出会って、とまどい、ショックを受
け、腹を立てるかもしれない。言葉が通じないことによるもどかしさにいらだち、自分の力を知って意気消沈することもある。しかし、それらすべてが大きな
「成果」である。
こうした経験を経て、学生たちは一つ違った段階へと成長する。その土地の人々や社会にこれまで以上に深い関心を示すようになるだけではない。異な る文化や「他者」にたいして寛容であり、自らと自文化を相対化できる人間としての方向に歩み出す。単なる異文化交流にとどまらない、多様な生活スタイルや 価値観が併存するという多文化感覚とでもいうべきものを身につけはじめる。あるいは、社会のさまざまの問題に意識が向かい出す。
体験型学習、少なくとも国際学部生向けの体験型学習としては、一つにはこういう仕方があるのだろうと私は考えている。
・仲間意識
ところで、スタディツアーには異文化体験や国際感覚の涵養とは別の副次的「効用」もある。1週間、10日と行動を共にするうちに、参加学生には仲
間意識が芽生えてくる。仲間意識など最近の学生は耳にしたことがない言葉かもしれないが、同じ場と時で起こる経験を共有するもの同士という感覚とでも言え
ばいいだろうか。慣れない味の食べ物を試し、炎天下の下を歩き回ってペットボトルの水を分け合い、時に体調をくずし、だれもが交代で何かをしくじり、宿や
屋台で夜遅くまで語らううちに、ぎこちなかった関係がしだいにこなれてくる。同行メンバーと折り合いをつけながらやって行くことを身につけ、一人一人の持
ち場が決まっていく。こうして、ずいぶんたくましくなるのである。
ところで、私は何をしているのか。外国で学生たちとともに新しいことを見いだして喜び、たまにしたたかな土地の人に実に見事にしてやられ、それで もそれを楽しみにかえ、今時の学生にしばしばあきれながらも少し教えられたりしている。身の安全や訪れた土地の人々・慣習などへの敬意に関わるよほどの事 項でないかぎり、滞在中は学生たちの行動に口を出すつもりはなく、おおむねかれらにまかせている。レクチャーなら、上級生が同行していれば、かれらが自主 的に深夜までしてくれるだろう。
私がとやかく言わずとも、フィールドが「他者」への意識と人間形成のきっかけを与えてくれる師である。
(国際学部教授)
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