瀬川 真平
・地域研究とフィールドワーク
国際学部で私が担当するゼミナール(3・4年次の2年間持ち上がり)は、「アジアの社会と文化の研究」を全体のテーマとしている。そのテーマのもとで学生たちは2年間にわたって各自の課題に取り組み、関心を発展させ、最後に卒業研究として論文にまとめる。
ところで、国際学部の重要な柱の一つは地域研究である。やや硬く言うと、どのような専攻分野から地域研究に参加するにしても、対象となる地域での フィールドワークが不可欠である。私のゼミのテーマがアジアに取り組む地域研究なので、学生にはできるだけ現地を見ることを薦めている。
・国際感覚
他方、国際学部が重視しているのは、異なる価値観をもつ人々にとまどい、せめぎあいながらも関係を構築していける力を養うことである。その力をた
んに語学力には還元できない国際感覚またはコミュニケーション力と言ってもいい。現代的な意味での教養(その一部)と位置づけて見たい気もする。
さて、フィールドワークは専門的な研究や学術調査の有効かつ独特な方法である。それと同時に、国際学部の教育目標に接近するための手段の一つ、と 私はとらえている。国際学部の学生たちが、海外のある土地を実際に歩き自分の目で見て、自分たちとは異なる人々の存在を意識してほしい、そうした人々と接 し少しでも交わることで、何かを体得してほしい。そう期待している。専門家が研究のために行う調査とは別に、このような体験もフィールドワーク(文字通り 「実地での演習」)と呼びたい。
・知ることとは体験すること
こうした「他者」や「異なる価値観」に接し、また特定の地域や国を広く理解するための一つの機会として、私のゼミでは3年次の夏休みか春休みを利
用して、タイ・マレーシア・インドネシアなどを中心とした東南アジア地域にフィールドワークやスタディツアーを行っている。4年次になってからも後輩たち
と一緒に再びスタディツアーに参加したり、論文の資料を得るために一人で現地に赴いたり、東南アジアの別の国や東南アジア以外の地域を旅行する者も少なく
ない。「現場を見よう」「野外で発想しよう」が合い言葉である。
とはいえ、現地に行けば何でもわかる、すべてが理解できるというほど現地至上主義をナイーブに信奉しているわけではない。むしろ、現地至上主義、
フィールド万能主義をつよく戒めたい。フィールドワークに潜むさまざまな問題点も自覚しておきたい。それでも、たんに「百聞は一見にしかず」という以上
に、「知ることとは経験すること」という点を重視したいのである。
(国際学部教授)
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