上住谷 崇
清華大学との契約は一年間だったので、中国に滞在できるビザの期限も一年経てば終わる。しかし私はさらに一年中国に残って中国語を勉強すると早々と決めていたので、その後も学習ビザを取る必要があった。
選択肢としては清華大学で延長手続きをして残るか、他の大学へ移るか、そしてもう一つは補習班で中国語を学ぶかだ。補習班というのは、日本語でいう塾のようなものだ。清華大学の周りでは、補習班はいくつもあった。学費が安く、かつ専門の教師陣を揃えているので、こちらの方が合っているという人も少なくなかった。補習班は長期で申し込むと、ビザも発行してくれるので、私は一番大手の補習班に通うことに決めた。
また同時に清華大学の寮からも出て、クラスメイトであったインドネシア人とミャンマー人の3人で暮らすことになった。私を最年長に2歳ずつ歳の差がある3人での生活が始まったわけだが、東南アジアについての理解を深めた。日本にはなぜ身分証明専用の証明証がないのか、戦争は今後起こるかどうか、自国でどのようなものが流行っているのかなどなど、本当にたわいも無いが聞いていて飽きないものばかりであった。この3人での生活は非常に思い出深く、また自分たちで部屋を借りるということも初めてであったり、語学以外で大きく成長できた期間だとも言える。
私たちは3人とも中国語を用いて会話をしていたし、自国の友人とはもちろん母国語で話していた。しかし面白いのは彼らが、母国の家族と電話で話すときは、また違う言語を話すということだ。実は北京に留学してくる東南アジアからの留学生のほとんどは、華人の三世であり、そのためそれぞれの家庭では、一世の華人であった人たちが中国にいたときの方言を使い、家の外ではその国の言葉で話すというのが一般的であったからであった。
一方、本業の補習班はというと、やはり教師陣が皆外国人に慣れていて非常に質の高い授業が行える環境であった。外国人に慣れているということは、言語を教える上で非常に重要なことで、例えば中国人にとって間違いやすい言葉と外国人にとって間違いやすい言葉は違っているので、押さえるポイントを間違えていると非常に効率の悪い授業になってしまう恐れがあるのだ。
また大学での授業との大きな違いは、時間的な融通が利くようになっていることだ。だがこれには悪い点がある。クラスメイトが流動的なので親しい友人関係を作ることが難しい点だ。実はこれは留学生には大きな問題なのである。留学先では友人の有無が生活の潤いに直結するというと大げさだが、外国人との交流という点や情報交換といった点、また同じ目標を持った友人、一緒に行動できる友人ということから考えても非常に大きな意義を持っているといえるだろう。
(IT関連会社勤務 2007年3月卒業)
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