本年度末で退職される阪田安雄教授の退職記念講義が、去る1月29日(月)午前9時から15号館 B1-01 会議室で行われました。
阪田教授は、「アメリカの社会と文化」「移民史」などの講義を、平成2年以来、長年にわたり行われました。厳しくも暖かみのあるご指導は、学生から高い評価を得てきました。ご研究では、日本人のアメリカ移住を日米関係史の視点から総括的に検討されてきました。ご著書には『明治日米貿易事始-直輸の志士新井領一郎とその時代-』(平成8年、東京堂出版)『在米日本人社会の黎明期-「福音会資料」を手がかりに-』(平成9年、現代資料出版)など多数あります。
講義のタイトルは「私のアメリカと日本における四十年にわたる日本移民の研究」でした。阪田教授がUCLAでの大学院生時代に出会い、生涯のテーマとなった日系人移民調査プロジェクト(The Japanese American Research Project)のお話から始まりました。このプロジェクトは、アメリカ全土に散在する一世の1036人を対象とする聞き取り調査です。このプロジェクトでは、史料を自由に読めるのは阪田教授だけであり、それこそ八面六臂の活躍であり、大学で得られる以上のことを得られ、アーキビストとしても鍛えられたと述懐されました。
さらに日本人移民というテーマが持つ難しさも語られました。阪田教授が1960年代後半、日本の国会図書館で研究をしていると、日本人研究者から「アメリカに留学しながら、なぜ移民のようなことを研究するのか」といぶかられたという体験を話され、「(在米日系移民)一世は日本を捨てた人、追い出された人」であるという見方が強いという日本側の意識の問題を指摘されました。
かたやアメリカでは移民史は確立した研究分野として認知されていますが、移民史研究は欧州中心的であること。そして欧州中心的な移民史研究の分析枠組みは、日本移民には適用できにくいことを語られました。たとえば移民という言葉は、ウェブスターの辞書などでは、永住を目的とするということが定義されていますが、これは日本移民には当てはまらない。たとえばハワイ官約移民では、「出稼ぎ」や「故郷に錦を飾る」という意識が強く、永住という意識が少ないということを指摘されました。
講義の最後には、幕末から太平洋戦争へといたる日米関係史の壮大なドラマを、移民という視点から描く、現在執筆準備中のご著書の構想について語られました。阪田教授にお目にかかる機会が少なくなるのは悲しいことですが、しかし世に問われる教授の新しいご著書を読む楽しみができたことを嬉しく思いました。(広野)
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